過失とは

 過失とは

不法行為責任

 「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したものは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」(民法第709条)
 この民法第709条の規定が不法行為責任と言われるもので、故意又は過失により損害を与えた場合のみ不法行為責任が生じます。逆に、故意も過失もない場合に結果が発生しても、損害賠償請求できません。そこで、過失が問題となります。

債務不履行責任

 債務不履行責任とは、契約関係にあるものが、契約に基づく義務を果たさなかった責任です。この債務不履行責任も、契約上果たすべき義務を果たさなかったことにより責任を問われるものであり、注意義務違反(過失)が問題となります。

 注意義務があることを前提として、この注意義務に違反する行為が過失です。
 この注意義務には、結果の発生を予見すべき義務(予見義務)と、そのような予見に基づいて結果の発生を回避すべき義務(結果回避義務)があります。注意義務違反がなければ結果を発生させた行為者の責任は問えません。
 医療過誤では、医師の注意義務違反の有無が問題となります。悪しき結果が生じたとしても、結果を発生させた医師に結果予見義務違反も、結果回避義務違反も認められなければ、その医師に法的責任を問うことはできません。

 過失相殺とは

 過失相殺とは、被害者側にも過失があるときには、損害の公平な分担を図るためにその賠償額を減少させることを言います。交通事故で過失相殺、過失割合が問題となりますが、交通事故ではある程度類型化されています。ただ、個別事情により変わってきますので、注意が必要です。

 被害者側の過失

 被害者本人の過失のみではなく、被害者側の過失についても過失相殺が行われることがあります。
 例えば幼児の飛び出し事故などで、父母などの過失を問題とする場合です。
 最高裁判例で「民法第722条第2項に定める被害者の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、広く被害者側の過失を包含するが、被害者本人が幼児である場合における被害者側の過失とは、父母ないしはその被用者である家事使用人などのように被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいう。」(昭和42年6月27日)と述べています。
 このように被害者だけでなく、被害者側の過失として、被害者に近いものの過失を問題として被害者の損害額賠償額の減少を認めるのは、損害の公平な分担の観点からなされるものです。
 被害者側の過失が認められた例として下記のものがあります。

  • 夫に過失があるときに、相手方が同乗している妻に対して負担すべき損害賠償額算定にあたり、その夫婦の婚姻関係が既に破綻に瀕しているなどの特段の事情がない限り、第三者が妻に対して負担すべき損害賠償額を定めるにつき、夫の過失を被害者の過失として斟酌することができるとしたもの(最高裁昭和51年3月25日)。
  • 内縁の妻が被害者となった場合の内縁の夫の過失を被害者側の過失として斟酌したもの(大阪地裁昭和52年6月3日)
  • 幼児の事故につき、監督義務者の過失を被害者の過失として考慮するのが通常です。